わたしを忘れないで
拝啓、坂本龍馬様。おんしは今、どこでどうしてござるんじゃろうか。陸奥守吉行は本丸の庭をぼおっと眺め、物思いに耽っていた。 あれから四百年ほどの時が過ぎて、今自分は審神者と呼ばれる人間、それも女性を主と呼んでいる。彼女の…
拝啓、坂本龍馬様。おんしは今、どこでどうしてござるんじゃろうか。陸奥守吉行は本丸の庭をぼおっと眺め、物思いに耽っていた。 あれから四百年ほどの時が過ぎて、今自分は審神者と呼ばれる人間、それも女性を主と呼んでいる。彼女の…
「さっぶ! いや、さっ、ぶ!」 笹貫がこの身を得たのは、夏の盛りだった。知識でしか知らなかった冬を体感するのは、これが初めてのこと。 呼吸をするたびに、空気を通す鼻が冷えていく。身をこごめ、せめて風除けにと前を行く広い背…
「しかし、政府も毎回どうしてこう」「うん、言いたいことは分かるよ」 政府からの公式発表が出たのは、今からちょうど三時間前。安定たちとの会議が終わった審神者執務室には、部屋の主である私と、その近侍の長谷部だけが残っていた。…
・2015年の8月発行の本の再録であるということを前提に読み進めてください 大倶利伽羅のカレーうどん 「いやぁ、すまんな伽羅坊」 本丸の台所を預かる昔なじみは、本日第一部隊で出陣中だ。その他の部隊も出陣や遠征で出払っ…
・2015年の8月発行の本の再録であるということを前提に読み進めてください 寸胴鍋の前には熱気が満ちている。火を止めて菜箸で鍋底をひっかき、燭台切光忠はまくり上げていたジャージの袖を下ろした。「長谷部君、行くよ」「ああ…